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最高裁判所第三小法廷 昭和63年(オ)1135号 判決

名古屋市東区泉一丁目三番三二号

上告人

コーヨー株式会社

右代表者代表取締役

岩田重代

右訴訟代理人弁護士

近藤倫行

長野市篠ノ井布施高田七一番地一

被上告人

光葉スチール株式会社

右代表者代表取締役

牛越忠恒

右当事者間の名古屋高等裁判所昭和六〇年(ネ)第七四四号、第七四八号損害賠償請求本訴、同反訴事件について、同裁判所が昭和六三年五月一二日言い渡した判決に対し、上告人から一部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

"

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人近藤倫行の上告理由について

本件において、反訴提起要件たる牽連性があるとした原審の判断は、その説示に照らして正当として是認することができる。その余の所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を論難するか、又は原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤庄市郎 裁判官 坂上壽夫 裁判官 貞家克己 裁判官 園部逸夫 裁判官 可部恒雄)

(昭和六三年(オ)第一一三五号 上告人 コーヨー株式会社)

上告代理人近藤倫行の上告理由

第一、原判決が反訴のうち債務不履行に基づく損害賠償請求につき、本訴請求又はこれに対する防禦方法と牽連性ありと判断した点は民事訴訟法第二三九条の解釈を誤ったものである。

一、 本訴請求は、被上告人が甲第一、二号証の虚偽文書を配布した行為が不正競争防止法第一条第一項六号若しくは民法第七〇九条に該当することを原因とするものである。一方被上告人の債務不履行に基づく損害賠償請求は被上告人と上告人との間の(一方の契約当事者を上告人と認定した点の違法性については後述する)継続的売買契約に基づくものであり、本訴との牽連性は全くないのである。即ち本訴においては甲第一、二号証の虚偽文書の違法性が問題となっているところ、右虚偽文書中に反訴主張のような債務不履行の点、ましてそのことが真実であるのか虚偽であるのかというようなことは全く問題となっていないのであって牽連性ありとは到底いい難いのである(第一審判決は正当にこのように判断している)。

二、1、 原判決は第一審判決別紙四 一覧表の3、5記載の部分が真実である旨の主張の中にはその前提として本件契約の存在及び上告人の債務不履行の事実が主張されているのであって結局債務不履行に基づく損害賠償請求も本訴請求に対する防御方法と牽連するものというべきであるという。

2、 しかし右3の部分について仮りに債務不履行の事実があるとしてもその主張が有効な防禦方法となることは全くないのである。債務不履行の事実を立証すれば真実の立証ができるという関係にあれば、それは防禦方法と牽連性があるといえるが、右の場合債務不履行を証明しても真実の証明とはならず、別の真実の証明をしなければならないのであるから、防禦方法と牽連性があるなどということはあり得ないのである。原審の判断によれば、防禦方法として有効(防禦方法としての主張事実が証明されれば真実の証明となる)であろうとなかろうと、主張さえしておれば、牽連することとなってしまうのである。

3、 右5についてであるが、5は甲第二号証における記載場所から見ても継続的売買契約解除後の上告人の行動についての誹謗であり、債務不履行とは全く関係のない事実である。第2項で述べたのと同様、債務不履行を立証できたとしても右記載の真実性が証明できるわけではないのであるからこれまた本訴における被上告人の防禦(真実の証明)と牽連するとはいえないのである。

三、 以上述べたように被上告人の反訴中、債務不履行に基づく損害賠償請求を求める部分は本訴請求又はこれに対する防禦方法とは全く牽連性はなく却下されるべきものである。しかるに牽連性ありとした原判決は民事訴訟法第二三九条の解釈適用を誤ったものであり、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令違背あるというべきである。

第二、原判決中、上告人と被上告人との間に契約関係を認めたうえ、上告人に対し八〇万円の損害賠償義務を認めた部分には理由不備ないしは採証法則違反の違法がある。

一、 原判決は(第一審判決も)乙第一号証、甲第一一号証の各継続的売買契約の契約当事者は一方は被上告人(甲)で、他方は上告人(乙)であるとする。

しかし契約当事者のうち乙は訴外岩田重朗であることは次のような点から明らかである。

〈1〉乙第一号証 昭和四七年三月四日付契約書(最初の契約書)

〈2〉甲第一一号証 昭和四九年一月八日付契約書(更新の契約書)

右〈1〉〈2〉の契約書から乙は訴外岩田個人であることは明らかである。上告人は保証人であるにすぎないのである。これらのことは右契約書の記載上から明々白々のことである。上告人は保証人であったが、被上告人から売買代金については上告人の手形によって支払って欲しいとの要請があり(乙第一号証第七項)、以後そのように処理してきたのである。

〈3〉乙第二号証 昭和五〇年九月一〇日付通知書

これは被上告人からなされた本件契約の解除通知であるが、その宛名は右〈1〉〈2〉の契約当事者である訴外岩田重朗及び保証人である上告人宛となっている。

右のように本件契約は、契約の成立、終了を証する最も重要な契約書、解除通知書等すべて訴外岩田重朗が契約当事者となっているのである。

二、 右契約期間中、契約当事者が訴外重朗ではなく上告人であるなどというような話は全くなく、当然のことながら右契約書どおりの当事者として認め合い、推移してきたのである。

被上告人が、契約当事者は上告人であると主張し始めたのは上告人から被上告人に対して本訴が提起されたため被上告人においてこれに対処する中、昭和五五年二月六日付準備書面によってである。それまでは本件訴訟においても契約当事者は訴外重朗であると明確に主張しているのである(例えば被上告人の昭和五三年八月三〇日付反訴状等)。被上告人が上告人が契約当事者と言い出したのは契約締結後八年経過してからであり、既に契約関係が終了してしまってからである。上告人を契約当事者とするような書面は何もないのである。

このような点からだけでも契約当事者が上告人であるなどという認定は全く採証法則に違反していると言わなければならない。

三、 原判決は被上告人と訴外重朗との間の取引による経済的利益が最終的に上告人に帰属していることを根拠としているようであるが、経済的な利益の帰属者と法的な契約当事者とは全く別のものであり、経済的利益帰属者が契約当事者となるなどというのは何の合理性もないのである。

子会社と取引をした場合法的には親会社と取引したことになるのであろうつか。このような考え方が存在するのであろうか。

四、 いずれにしても前述のように明白な契約書等があるのにこれによらず(もっとも原判決は乙第八~一〇号証を証拠として挙げているが、このような書簡-代金支払は上告人の手形を以て支払うこととなっていたので上告人の名称を使って出されたものである-の方が契約書よりもより証明力が強いのであろうか。契約書とは一体何であるのであろうか。また原判決は光葉スチール名古屋営業所という営業表示をそのまま継続して使用したいとの意図があったとの点も理由としているが、それが何故訴外重朗と認定する障害になるのか、理解に苦しむのである。)、契約当事者を上告人と認定した原判決には理由不備ないしは採証法則違反の違法があるといわなければならない。

第三、原判決は、上告人が「萬国貿易株式会社」から「コーヨー株式会社」へと商号変更するにつき被上告人から承諾を得ているのにこれを認定しなかったが、この点には採証法則に関する経験則違反の違法があり、判決に影響を及ぼすこと明らかな違背があるというべきである。

一、 上告人は商号変更につき被上告人にその承諾を求め、その承諾を得ている。また商号変更後、被上告人に対しても商号変更の挨拶状を出し(甲第四号証)、また変更後上告人、被上告人間において新商号による契約文書も作成され(甲第五号証)、また商号変更後である昭和五〇年三月一五日以降は手形振出名義も新商号となっている(甲第一四号証、乙第四七号証の三の三月二七日付の二通の手形、同号証の四の四月二二日付の二通の手形、同号証の五の八月二五日付の手形はいずれもコーヨー株式会社名義で振出され被上告人宛交付されている)。

右のように被上告人は上告人が商号変更をしたことを熟知しているのに異議を述べたことは皆無である。変更について承諾を与えていたのであるから当然である。また乙第二号証の解除通知書の宛名はコーヨー株式会社となっているのに、商号の点については何も言及していない。被上告人が上告人に対して商号差止の主張をするようになったのはこれまた本訴に対する反訴の追加請求という形においてでありそれは昭和五三年九月のことである。

二、 以上のように商号変更の承諾を認定する証拠は多数存在しているのに原判決は、被上告人が簡単に承諾するとは考え難いということ及び承諾を表わす文書が作成されていないことを理由に承諾の事実を認定しなかったのである。

しかし商号変更について簡単に承諾するや否やについての経験則が原判決のいう通りとは考えられないし、承諾について書面がなければ効力がないなどということもないのであって(原判決は前述の如く契約当事者の点においては契約書の存在を無視し、承諾の点では契約書が存在しないから認めないなどとし、その認定は恣意的である)、証拠の優劣から認定すべきものである。このような観点からすれば本件において商号変更の承諾があったことは明らかである。

三、 商号変更の承諾を認定しなかった原判決には採証法則に関する経験則違反があるというべきである。

第四、上告人の商号変更により被上告人の被った無形損害は一、〇〇〇万円であるとした原判決の認定は証拠によらないものであって理由が付されていないか若しくは理由不備の違法がある。

一、 原判決は右一、〇〇〇万円の損害を認定した理由として「商号変更に至る経緯及び本件に顕われた原告(上告人)、被告(被上告人)双方の販売実績、利益率等を総合勘案すると、第一審被告(被上告人)の被った無形損害は、昭和五〇年二月一日以降同六二年一二月一日までの期間について、一、〇〇〇万円をもって相当と認める」と判示するのみである。

二、 しかし本件訴訟に顕われた具体的資料としては乙第二七、二八、二九号証、乙第三〇号証等があるのみであり、具体的損害を立証する証拠はないのである。無形損害だからと言って全く自由に何の証拠もなく認定できるものではなく、そこには自ら合理性のある金額でなければならないのである。原判決には現実の取引状況(スチール家具業界は一般大衆を相手にするものではなく、学校、建築会社等々のいわば専門家を相手とするものであること、そこにおいては商号よりも日常的な営業活動が商談に直結していること等から商号の混同などということは、商号変更の直後は多少あったとしても、しばらく経過後は皆無であること、被上告人も最近の混同例などの立証はしていない)、特にここ数年における業界のおかれた状況、利益率の低下等についての言及が全くなされていないのである。

三、 右のとおり原判決の一、〇〇〇万円の損害の認定は証拠によらないものであり違法と言わざるを得ない。

以上原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令違背、また判決に理由を付せずまたは理由不備の違法あるものであるから破棄されるべきである。

以上

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